
高品質なITインフラを構築するうえで、上流工程は重要なフェーズです。構築や運用保守など後工程の質も左右するため、ハイスキルなインフラエンジニアが必要です。
しかし「上流工程に知見のある人材が不足している」「どのようなスキルが必要かわからない」と悩む方もいるかもしれません。採用基準がわからないままエンジニアを採用すると、上流工程で行き詰る恐れがあります。
そこで本記事では以下の内容について解説します。
上流工程の概要と重要性
上流工程のインフラエンジニアに求められるスキル
優秀な上流エンジニアを育成・確保する方法
本記事を最後まで読めば、上流工程の大切さと必要とされる人材を理解し、構築や運用保守などの後工程がスムーズに進むでしょう。上流工程の人材確保に悩む中小企業の経営者は、参考にしてください。
インフラエンジニアの上流工程とは?
インフラエンジニアの上流工程とは、システム基盤の設計図を作成する重要な段階です。具体的には、上の図のように要求定義、要件定義、設計の3つのフェーズで構成されています。
これらの段階で適切な判断ができないと、後になって「こんなはずじゃなかった」という事態に陥り、追加コストや納期遅延の原因になるでしょう。
多くの中小企業がITプロジェクトで失敗する最大の理由は、上流工程での認識不足やコミュニケーション不足にあります。経営者がインフラ上流工程の基本を押さえておくことで、ベンダーとの打ち合わせで主導権を握り、自社に最適なシステム構築を実現できるでしょう。
上流工程の各フェーズの概要
上流工程の各フェーズは、建築で言うと以下のようにたとえることができます。
要求定義:何のために、どんなビルを建てるか(目的と大枠)
要件定義:具体的な仕様と性能(何階建て、耐震性能など)
設計:詳細な設計図の作成(間取り、配線、配管など)
これら3つのステップをしっかり踏むことで、後々の手戻りや追加コストを防ぐことができます。それぞれのフェーズについて詳しく見ていきましょう。
要求定義
要求定義とは「なぜシステムを刷新するのか」「どんな経営課題を解決したいのか」という根本的な目的を明確にする段階です。
たとえば、ある会社では「古くなったシステムインフラの刷新」が目的ですが、その背景には「業務効率化」「コスト削減」「将来の拡張性確保」などさまざまな課題があるはず。
この段階で重要なのは、技術的な詳細ではなく自社視点でのありたい姿を明確にすることです。「5年後、10年後の自社のビジョンを実現するために、システムはどうあるべきか」という観点で考えることが、成功への第一歩と言えます
具体的には、以下のポイントを明確にしておくと良いでしょう。
現状の課題と解決したい問題点
新システムで実現したいこと
優先度と予算感
プロジェクトの期限と大まかなスケジュール
要求定義は自社の将来を見据えた明確なビジョンを描くことが重要です。
要件定義
要件定義は、システムに求める具体的な機能や性能を明確にするフェーズです。具体的には、業務要件(業務上必要な機能)とシステム要件(技術的に必要な要素)の両方を定義していきます。
とくに押さえておきたいのが非機能要件で、どのように動作するべきか、どれくらいの品質であるべきか、といった側面を明らかにします。具体的に明確にしておくべき項目を下の表にまとめました。
非機能要件の種類 | 検討すべきポイント | 経営上の影響 |
可用性 | システムの稼働率(例:99.9%) | 業務停止リスク |
性能・拡張性 | 処理速度、将来の拡張性 | 業務効率、将来の投資額 |
セキュリティ | データ保護、アクセス制御 | 情報漏洩リスク、法令遵守 |
運用保守性 | 監視体制、障害対応 | 運用コスト、復旧時間 |
移行方法 | データ移行、切替方法 | 業務への影響度 |
多くのトラブルやコスト増大は、非機能要件の定義不足から生じています。とくに外注の場合は「なんとなくわからないから」とベンダーに一任せずに、これらの要件について自分なりの判断基準をもたなければいけません。
設計
設計は実際のシステム構成を決める段階で、コストと品質のバランスを判断する重要な局面です。設計フェーズはおおきく「基本設計」と「詳細設計」にわかれます。
基本設計では、システム全体のアーキテクチャ(構造)やネットワーク構成、セキュリティ対策などの大枠を定義。詳細設計では、具体的な機器の選定やパラメータ設定、運用手順などの詳細を決めていきます。
なかでも重視すべきなのが基本設計で、以下のポイントに注目することが重要です
クラウドか自社設置(オンプレミス)か:コストのバランス、将来の拡張性を考慮
冗長化(バックアップ)の程度:コストと事業継続性のバランス
セキュリティ対策のレベル:コストとリスク対応のバランス
拡張性と将来性:5年後、10年後も見据えた設計になっているか
設計フェーズでは、技術的な側面だけでなく「経営」という観点で評価することも重要です。たとえば、システムを冗長化する場合「システムが止まったら1時間あたりいくらの損失が出るか」と経営的な損失を計算して、冗長の程度を判断すると良いでしょう。
設計について詳しく知りたい方は、下の記事も参考にしてください。
関連記事:ITインフラの設計とは?構築との違いと流れ・外注のポイントを紹介
上流工程と下流工程の違い
プロジェクト全体の成否を決めるのは、主に上流工程での判断です。上流工程と下流工程の違いを下の表で比較してみました。
項目 | 上流工程 | 下流工程 |
主な活動 | 要求・要件定義、設計 | 構築、テスト、運用 |
経営者の関与 | 非常に重要 | 重要度は低い |
判断の性質 | 経営判断が中心 | 技術判断が中心 |
ミスの影響 | 甚大(全体の手戻り) | 限定的(部分修正) |
マイホームにたとえると、上流工程は「どんな家を、どこに、どのくらいの予算で建てるか」を決める段階。下流工程は「実際に基礎を作り、壁を立て、家具家電を取り付ける」段階です。
もし上流工程で「和室が必要」と決めなかったのに、後から「やはり和室が欲しい」と言えば大幅な手戻りとなり、コストもスケジュールもおおきく狂ってしまいます。だからこそ、上流工程で要件の見落としや曖昧な指示がないよう社内で意思統一することが重要なのです。
関連記事:インフラエンジニアの下流工程とは?仕事内容と必要なスキル・人材の確保について解説
インフラエンジニアの平均年収は684.9万円
厚生労働省の職業情報提供サイトjobtagによると、インフラエンジニアを含むシステムエンジニアの平均年収は684.9万円との結果が出ています。
出典:Jobtag
ただし、これらはあくまで平均で、担当する工程やスキルレベル、経験年数によって変動します。一般的には、上流工程のエンジニアは希少価値が高く、年収も相場より高い傾向にあります。
インフラエンジニアの年収を理解することで、自社IT人材の育成方針や、外部ベンダー選定をするときの費用感を把握できるでしょう。
上流工程の年収相場は600万円以上
上流工程を担当するインフラエンジニアの年収相場は600万円以上と、業界平均をおおきく上回ります。なぜこれほど高いのかというと、上流工程を担当するエンジニアには以下のような高度なスキルが求められるからです。
技術的な専門知識だけでなく、業務知識や経営視点の理解
要件をヒアリングし、適切な設計に落とし込むスキル
コストと品質のバランスを考慮した最適な提案ができる判断力
経営者やエンドユーザーにもわかりやすく説明できるコミュニケーション力
将来を見据えた拡張性のある設計ができる先見性
これらのスキルをもつエンジニアは貴重で、年収も自然と高くなります。経験年数や役職によってさらに細分化すると、年収相場は以下のようになります。
プロジェクトマネージャー/ITアーキテクト:700万円~900万円
インフラ設計リーダー:650万円~800万円
上流設計エンジニア:600万円~750万円
優秀な上流エンジニアの費用は高くても、結果的に全体最適化によるコスト削減と高品質なシステム構築につながるでしょう。
下流工程の年収相場は300万円~600万円
下流工程を担当するエンジニアの年収相場は300万円~600万円と、上流工程と比べてかなり幅広いのが特徴です。この幅広い年収差は、下流工程のなかでも業務の難易度やスキルレベルにおおきな違いがあるためです。
下流工程のエンジニアは、経験年数やスキルレベルによって以下のように分類できます。
レベル | 主な業務内容 | 年収相場 | 特徴 |
初級 | 基本的な構築作業 | 250万円~350万円 | 経験1~3年程度 |
中級 | サーバー構築 | 350万円~450万円 | 経験3~5年 |
上級 | 複雑なシステム構築 | 450万円~600万円 | 経験5年以上 |
採用担当者が知るべきことは、単純な人件費の安さだけに注目して人材を確保してはいけないということです。
とくに保守を任せる場合は、トラブル対応力や問題解決能力が重要になるため、ある程度経験を積んだエンジニアが担当することが望ましいでしょう。
コスト削減は重要ですが「安かろう悪かろう」にならないよう、必要な工程には適切なスキルレベルのエンジニアを配置することをおすすめします。
関連記事:【企業向け】インフラエンジニアの年収目安と低コストで運用する方法を解説
インフラエンジニアの上流工程が重要な理由
ITインフラで上流工程が重要な理由は以下のとおりです。
システム全体の品質を左右する
ビジネス要件と技術的要件の橋渡しになる
コスト効率を向上させリスクを低減する
拡張性と将来性を確保する
セキュリティリスクに事前対応できる
システム全体の品質を左右するため
インフラは建物の基礎工事と同じで、上流工程での設計品質がシステム全体の品質を決定づけます。
インフラはアプリケーションの土台となるため、この段階でのミスは後工程でいくら頑張っても取り返しがつかないことが多いです。たとえば、建物の基礎工事に問題があると、どんなに内装に凝っても建物自体が危険というのと同じです。
上流工程のエンジニア(場合によっては経営陣)が適切に関与することで、「思っていたのと違う」というギャップを最小限に抑え、必要なシステムを効率良く構築できるでしょう。
ビジネス要件と技術的要件の橋渡しになるため
上流工程の最も重要な役割は「経営課題を技術的な解決策に転換する」という作業です。経営者が「業務効率を30%アップしたい」と考えているとしても、それをどんなインフラで実現するかは技術的な専門知識が必要です。
上流工程では、このビジネス目標と技術的な実装方法の橋渡しをする重要なステップが含まれています。たとえば、「リモートワークの促進」というビジネス要件があれば、それを実現するための「安全なVPN接続」「クラウドストレージの導入」といった技術要件に落とし込む作業が必要です。
このステップでの誤解や認識のずれがあると、後で「システムはできたけど使いものにならない」という結果を招きかねません。そのため、上流工程では経営陣とエンジニアが密にコミュニケーションを取り、ありたいシステムの姿を共有することが大切です。
コスト効率の向上とリスク低減を図るため
上流工程に適切な投資をすることで、プロジェクト全体のコストを大幅に削減できる可能性があります。
一般的には、プロジェクト全体の10〜20%のコストを上流工程に投資することで、残りの80〜90%の効率化が図れると言われます。これは「設計で1万円かける労力を惜しんだために構築・テスト段階で10万円の修正コストが発生」というような事態を避けるためです。
上流工程に十分な予算と人をかけることが、結果的にプロジェクト全体のコスト適正化につながるでしょう。
拡張性と将来性を確保するため
上流工程で大切なのは、将来を見据えた設計をすることです。ビジネスの成長や変化に柔軟に対応できるインフラかどうかは、この上流工程の設計で決まります。
たとえば、現在30名の社員が3年後に50名に増えた場合でも、おおきな追加投資なしに対応できるかどうかを考慮した設計が必要です。
また、将来のテクノロジートレンドを見据えた設計も重要。5年後、10年後に陳腐化してしまうようなシステムでは、再びおおきな投資が必要になってしまいます。
拡張性の高い設計の具体例としては、以下のようなポイントを押さえるとよいでしょう:
モジュール化された設計で部分的な更新が可能
拡張性を考慮したリソース設計
業界標準の技術・プロトコルの採用
データ移行や連携を考慮した設計
短期的なコストだけでなく長期的な投資効果のバランスを見極めることが重要です。
セキュリティリスクに事前対応するため
セキュリティは後から付け足すのではなく、上流工程から組み込むことが効果的です。セキュリティ対策を後工程で行うと、コストが急増する恐れがあるからです。
IPA(情報処理推進機構)のセキュリティ・バイ・デザイン導入指南書によると、設計と比べて運用ではセキュリティ対策のコストが100倍増加するとの試算を出しています。
上記のような事態を防ぐためにも、上流工程で本当に必要なセキュリティレベルを見極め、過剰投資や過少投資を避けることが大切です。
上流工程のインフラエンジニアに求められるスキル・能力【技術面】
上流工程のインフラエンジニアに求められる主な技術面のスキルは以下のとおりです。
専門スキル
要件定義スキル
設計ドキュメント作成スキル
リスク分析スキル
コスト分析と投資判断のスキル
最新技術に対する理解力
これらのスキルをもつエンジニアを見極めることで、インフラ刷新プロジェクトの成功確率を高められるでしょう。
専門スキル
当然ですが、上流工程の品質を高めるためには以下のような専門スキルが欠かせません。
上流工程に必要な専門スキル | 概要・特徴 |
クラウド技術 | AWS、Azure、GCPなどのパブリッククラウドが主流 |
ネットワーク設計 | 冗長化(バックアップ回線の確保) |
仮想化技術 | 一つのコンピューターで複数のマシンが動いているように見せかける技術 |
セキュリティ設計 | 多層防御(複数の防御層を設ける) |
上記のスキルを活用して、システム全体の拡張性、運用性などを考慮した設計スキルも重要です。採用担当者・経営者としてはすべての専門知識をもつ必要はありませんが、これらの要素が議論されているかをチェックすることが大切です。
要件定義スキル
要件定義では、非機能要件(性能、安定性、セキュリティなど目に見えにくい要素)を具体的な数値目標として定義できる能力がとくに重要です。
たとえば「システムは安定していること」という曖昧な要件では不十分です。「年間稼働率99.9%以上(年間ダウンタイム8.76時間以内)」といった具体的な指標に落とし込む能力が求められます。
要件定義に必要な能力は具体的には以下のようなものです。
ビジネス要件をシステム要件に変換する能力
要件の優先順位付けを行える判断力
将来の拡張性や変更可能性を考慮した要件設計能力
相反する要件(コスト削減と高可用性など)のバランスを取る能力
製造業を例に挙げると「工場の生産管理システムは24時間365日動き続ける必要がある」といった業務要件があるとしましょう。ここで「システム可用性99.99%以上」といった非機能要件に変換できるエンジニアかを見極めることが大切です。
設計ドキュメント作成スキル
どれだけ優れた設計でも、それを適切に文書化できなければ価値が半減してしまいます。設計思想や判断基準を論理的に説明できるドキュメンテーション能力は、上流工程のインフラエンジニアにとって必須のスキルです。
たとえば「なぜこの構成を選んだのか」「他の選択肢と比較してどのような優位性があるのか」を明確に説明できるドキュメントが求められます。
また、下のようなシステム構成図やネットワーク図などの図表を効果的に作成するスキルも重要です。複雑な構成もひと目で理解できるような図表は、関係者間のコミュニケーションを円滑にし、誤解を防ぐ効果があります。
出典:龍谷大学
ドキュメントは、将来の運用担当者や次期開発者にも理解してもらわなければいけません。将来的な人員変更も想定して、新しいメンバーでも活用できるかが重要と言えるでしょう。
リスク分析スキル
上流工程の重要な役割の一つが、将来のリスクを予測し対策することです。
潜在的なリスクを予測して対策を設計に組み込む能力は、システムの安定稼働のために欠かせません。「データセンターが自然災害で停止した場合」「急激なアクセス増加が発生した場合」などのリスクを予測し、あらかじめ対策を講じておく必要があります。
障害発生時のリカバリー手順やBCP(事業継続計画)対策を考慮した設計能力も重要です。災害時でも最低限の業務を継続できるよう、データバックアップやシステム復旧の手順を設計段階から考慮することが求められます。
トレードオフの分析も重要なスキルです。コスト、性能、セキュリティなどは往々にして相反する要素であり、これらのバランスを取って最適解を導かなければいけません。
たとえば「最高レベルのセキュリティを確保する」と「使いやすいシステムにする」は両立が難しいケースが多いです。そのため、業務の重要度に応じた適切なバランスを見極める判断力が不可欠です。
コスト分析と投資判断のスキル
インフラ投資の短期・中長期的なTCO(総所有コスト)を算出する能力は、経営判断をサポートするうえで非常に重要です。TCOには、初期導入費だけでなく、運用コストや保守費用、将来的なアップグレード費用なども含まれます。
コスト対効果を分析し、最適な技術選択をする判断力も求められます。たとえば、「高額だが将来的な運用コストが低い技術」と「初期費用は安いが運用コストが高くつく技術」の比較など、長期的な視点での判断が必要です。
段階的投資計画を策定し、優先度をつける能力も重要です。すべてを一度に刷新するのではなく、重要度や緊急度に応じた投資計画を立てることで、リスクとコストを分散できます。
このように上流工程において、限られた予算で最大の効果を得るための投資判断は、きわめて重要です。
最新技術に対する理解力
インフラ技術は日々進化しており、最新技術をいつどのように取り入れるかの判断も重要なスキルです。クラウドネイティブ、マイクロサービス、サーバーレスなど最新アーキテクチャの理解は、将来を見据えたシステム設計に欠かせません。
また、DevOps(開発と運用の統合)、IaC(Infrastructure as Code:インフラのコード化)などの新しい運用手法を設計に取り入れる能力も重要です。たとえば、IaCを活用することで、インフラ構築の再現性や一貫性が高まり、人的ミスの削減や構築時間の短縮が可能になります。
一方で、新技術の成熟度を見極め、プロジェクトへの導入判断ができる能力も求められます。最新技術が魅力的でも、実績や安定性に乏しい場合は重要システムへの導入リスクが高まるからです。
最新技術を追いかけるだけでなく、自社の状況に最適な技術を見極める判断力も必要でしょう。
上流工程のインフラエンジニアに求められるスキル・能力【人物面】
上流工程のインフラエンジニアには、技術面だけでなく人物面のスキルも欠かせません。とくに必要なヒューマンスキルは下のとおりです。
問題解決能力
ビジネス理解力
コミュニケーション能力
問題解決能力
上流工程で重要なのは「問題を素早く正確に把握し、最適な解決策を導き出す能力」です。
複雑な技術的課題を分解して段階的に解決していく思考力は、インフラ設計の成否を左右します。たとえば「システムが遅い」という漠然とした問題に対して、「どの処理が」「どのくらいの頻度で」「どの程度遅いのか」と要素を分解できる分析力が求められています。
過去の障害事例や失敗例から学び、設計に反映できる経験値も重要。「こういう構成にするとこんな問題が起きやすい」という知見は、実務経験からしか得られない貴重な財産と言えるでしょう。
採用面接で問題解決能力を見極めるときには「過去に直面した最も難しい技術課題とその解決方法は?」と質問してみましょう。回答の論理性や過程の説明から、その人の問題解決能力がわかります。
ビジネス理解力
上流工程のインフラエンジニアに最も必要な能力の一つが「ビジネス理解力」です。
業種業態特有の業務プロセスとシステム要件を理解する能力があると、「なぜそのシステムが必要なのか」という本質を捉えた提案ができます。たとえば製造業では以下のことが重視されます。
24時間365日の安定稼働
トラブル発生時の迅速な復旧
定期的なメンテナンス時間の確保
こうした業種特有の要件を理解していないエンジニアは、技術的には優れていても、本当に必要なシステムを提案できません。
経営目標や事業戦略をITインフラ要件に落とし込むスキルも不可欠です。「3年後に新工場を建設する計画がある」という情報から「将来の拡張性を考慮したネットワーク設計」という要件に落とし込める力は、経営陣との信頼関係構築に直結します。
面接でビジネス理解力を見極めたい場合は「当社の業種について理解している部分と、もっと知りたい部分は?」と質問すると良いでしょう。業界知識の深さと学習意欲が見えてきます。
コミュニケーション能力
技術的な内容をわかりやすく説明する能力は、信頼関係を構築するときの基本です。技術用語を多用した説明ではなく「これはカーナビのルート検索のようなもので」といった身近なたとえで説明できるエンジニアは貴重と言えます。
顧客やステークホルダーからの曖昧な要望を具体的要件に整理する力も重要です。「使いやすいシステムが欲しい」という漠然とした要望から「レスポンス時間3秒以内」「画面遷移3ステップ以内」といった具体的な要件に落とし込めると、誰もが同じ目標に向かって進めるでしょう。
面接でコミュニケーション能力を見るには「難しい技術を非エンジニアにどう説明しますか?」と質問すると効果的です。
上流工程のインフラエンジニアを育成する方法
すぐに即戦力を確保できない場合は社内人材の育成も有効な選択肢です。ここでは上流工程インフラエンジニアを育成する方法を解説します。
教育体制を変える
関連会社のプロジェクトに派遣する
社外の研修サービスを活用する
教育体制を変える
日常業務のなかで、上流工程の考え方を意識づける教育体制が最も効果的です。
具体的には、下流工程(構築・運用)を担当しているエンジニアに、設計書の読み方や改善点の考察を日常的に指導することから始めましょう。「なぜこのような設計になっているのか?」「他の方法ではどうだったか?」といった問いかけを繰り返すことで、設計思考が養われていきます。
また、社内でのナレッジを共有する機会を定期的に開催することも効果的です。たとえば月に1回、「今月経験した障害事例とその解決策」「新しく習得した技術の活用方法」などをチーム内で共有する時間を設けると、個人の経験が組織の財産になります。
関連会社のプロジェクトに派遣する
関連会社や取引先のプロジェクトに社員を派遣することが、最も実践的なスキルアップの機会になるのです。
とくに上流工程(要件定義や設計)段階のプロジェクトに参加させることで、座学では得られない生きた知識を習得できます。たとえば、自社工場のネットワーク更新プロジェクトに派遣することで、現場へのヒアリング方法や設計書の作成プロセス、下請け業者との折衝などを学べます。
短期的には人手不足になりますが、中長期的には高いスキルをもった人材が戻ってくるため、組織全体の底上げになるでしょう。
社外の研修サービスを活用する
「体系的な知識を効率良く学ばせたい」という場合は、社外の研修サービスを活用するのが最適です。
インフラ設計に特化した技術研修は、短期間で集中的に知識を習得できるメリットがあります。たとえば、以下のような研修カリキュラムが効果的です。
研修の種類 | 内容 | 期間 | 対象者 |
インフラ設計基礎 | システム要件からの設計手法 | 2日間 | 実務経験1~3年 |
クラウド設計実践 | AWS/Azureを活用した設計演習 | 3日間 | 実務経験2~5年 |
非機能要件定義 | 可用性、性能、要件などの定義 | 2日間 | 実務経験3年以上 |
上流SE育成 | 要件定義技法 | 5日間 | リーダー候補 |
これらの研修は対面だけでなく、オンライン形式もあるため、地方の企業でも活用しやすいはずです。研修を選ぶときの判断材料として使うと良いでしょう。
関連記事:インフラエンジニアの育成方法を解説!おすすめの研修や資格なども紹介
即戦力のインフラエンジニアを探す主な方法
「人材育成は時間がかかるが、いますぐ上流工程を担えるエンジニアが必要」という場合は、外部から即戦力を確保する方法も有効です。ここでは即戦力のインフラエンジニアを確保する方法を解説します。
採用手段 | メリット | 注意点 |
転職エージェント | 豊富な人材データベースを保有 | 手数料が年収の20-35%と高額 |
スカウト採用 | 優秀な人材に直接アプローチ可能 | 返信率が5-10%程度と低い |
SNS活用 | 企業の魅力を伝えやすい | 効果が出るまで時間がかかる |
フリーランス活用 | 複数の現場経験をもつ人材が多い | 契約条件の明確化が重要 |
採用手段にはそれぞれ特徴があるため、自社の状況(予算、時間的余裕、求める人材像)に応じて最適な方法を選択することが重要です。
転職エージェントの活用
上流工程ができるインフラエンジニアを効率的に見つけるなら、転職エージェントの活用が最も効果的です。
転職エージェントは豊富な人材データベースをもっており、自社の要件に合った候補者を短期間で紹介してくれます。「ITに詳しくない」という経営者でも、要件をエージェントにうまく伝えれば、適切な人材を厳選してもらえるのがメリットです。
とくに中小企業の場合、採用ノウハウや人脈が限られているため、エージェントの活用で採用活動の質がおおきく向上します。たとえば「製造業のシステム更新プロジェクトの経験者」「クラウド移行の上流設計経験者」など、具体的な条件を伝えることで、ピンポイントの人材を見つけてもらえます。
ただし、エージェント手数料は年収の20~35%程度と高額になることが多く、予算の確保が重要です。また、エージェントによって得意分野や保有人材の質におおきな差があるため、複数社を比較検討してから依頼することをおすすめします。
関連記事:インフラエンジニア採用にエージェントを活用するメリットと選び方を解説
スカウト採用
「理想の人材に直接アプローチしたい」という場合は、スカウト採用が効果的です。
スカウト採用とは、LinkedInやWantedlyなどのプラットフォームで、条件に合う人材を検索し、直接オファーを出す方法。通常の募集では応募しない優秀な人材にもアプローチできるのが魅力です。
たとえば、LinkedInでは「インフラ設計」「要件定義」などのキーワードで検索すると、関連スキルをもつエンジニアが見つかります。
「でも、大企業のエンジニアが中小企業に来るだろうか?」という疑問があるかもしれません。しかし、大企業ではできない「裁量のおおきさ」「意思決定の速さ」「成果の見えやすさ」などをアピールすることで、優秀な人材を惹きつけることができます。
ただし、スカウト採用では返信率が10~20%程度と低いため、大量のメッセージ送信が必要になります。また、競合他社も同じ優秀な人材にアプローチしている可能性が高く、差別化できる魅力的なオファー内容を準備することが重要です。
関連記事:インフラエンジニアをスカウト採用するメリットや成功させる方法を解説
SNSの活用
X(旧Twitter)やFacebookなどのSNSを活用した採用活動も効果的です。
SNSでは「うちの会社はこんなことに取り組んでいます」「こんな人材を探しています」と発信し続けることで、自社に興味をもつエンジニアを増やせます。
とくに技術的な投稿や、社内の取り組みを定期的に発信していると「この会社で働いてみたい」と思ってもらえる可能性が高まります。たとえば「製造現場のDX推進事例」や「クラウド移行プロジェクトの舞台裏」などの投稿は、エンジニアの関心を惹きやすいテーマです。
ただし、効果が出るまでに数か月から1年以上の長期間を要することが多く、即戦力が急務の場合には向きません。また、投稿内容によっては炎上リスクもあるため、機密情報の取り扱いや発信内容には十分注意が必要です。
フリーランスの活用
「正社員採用はハードルが高い」という場合は、フリーランスエンジニアの活用も検討する価値があります。
フリーランスのインフラエンジニアは、複数の現場経験をもつ即戦力人材が多く、プロジェクト単位での契約が可能です。たとえば「クラウド移行の設計フェーズのみ」「要件定義から基本設計まで」といった期間限定の契約ができるのがメリット。
時給単価は正社員より高めですが、必要な期間だけ契約できることや社会保険等のコストがかからないことを考えると、トータルコストでは効率的なケースも多いです。
ただし、契約期間終了後の知識・ノウハウの引き継ぎが課題となりやすく、組織内への定着を図る仕組みづくりが重要です。また、プロジェクト途中で他案件に移ってしまうリスクもあるため、契約条件の明確化と複数候補の確保を検討しておくべきでしょう。
フリーランスのインフラエンジニアを活用するメリット
ここでは、フリーランスインフラエンジニアを活用する際の具体的なメリットをご紹介します。
即戦力として起用できる
人件費を調整しやすい
コミュニケーションがスムーズ
これらのメリットを理解することで、フリーランス活用の第一歩を踏み出せるでしょう。
即戦力として起用できる
フリーランスのインフラエンジニアは、すぐに成果を出せる人材が多い傾向にあります。フリーランスはさまざまな業界・企業のプロジェクトを経験しているため、幅広い知識と実践力をもっています。
とくに上流工程を担当してきたフリーランスは、異なる要件や環境での設計経験があるため、応用力が高いのが特徴です。たとえば「製造業のクラウド移行プロジェクトの経験者」というピンポイントの条件でも、該当するフリーランスを見つけやすくなっています。
企業にとって明日から本格的に動いてほしいという要望にも応えられるのが、フリーランスのメリットです。
人件費を調整しやすい
フリーランスの活用は人件費の柔軟な調整が可能で、経営の自由度を高められるのです。
フリーランスは必要な期間・工程だけ契約できるため、プロジェクトのピーク時だけ人員を増やすといった調整が容易です。たとえば「要件定義から基本設計までの3か月間」「月に5日程度のアドバイザー契約」など、必要に応じた契約形態を選べます。
また、社会保険料や福利厚生費、教育費などのコストがかからないのもおおきなメリットです。このように、月々の固定費が低いことと契約期間の柔軟性も、フリーランスを活用する強みです。
関連記事:フリーランスのインフラエンジニアと契約した場合の単価相場とは?|単価交渉のコツも解説
コミュニケーションがスムーズ
意外かもしれませんが、フリーランスのインフラエンジニアはコミュニケーションがスムーズなケースが多いのです。
フリーランスはさまざまなクライアントと直接やり取りした経験があるため、相手の要望を汲み取り、わかりやすく説明するスキルが磨かれています。とくに、上流工程を担当するフリーランスは、経営層や現場担当者などさまざまな立場の人との折衝経験があり、コミュニケーション能力が高い傾向にあります。
さらに組織の縛りがないため「これはできない」ではなく「こうすればできる」という提案型のコミュニケーションができる人材が多いのも特徴です。
また、フリーランスは直接契約であるため、大手SIerのような多重下請け構造がなく、情報伝達のロスが少ないのもメリットです。フリーランスと直接コミュニケーションを取ることで、要望を正確に伝え、迅速な対応を受けとれるでしょう。
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今回は、インフラエンジニアの上流工程スキルとその重要性、人材の育成方法について解説しました。中小企業のITインフラ刷新を成功させるためには、上流工程への理解が不可欠です。
上流工程はシステム全体の品質に直結し、将来のコスト効率の向上と拡張性を左右するでしょう。また、優秀な上流工程に長けたインフラエンジニアを育成するためには、設計構築などの技術力だけでなく、課題解決力や自社事業に対する深い理解も不可欠です。
以上の内容を意識しておくと、自社の将来を見据えた最適なインフラ構築が可能になるでしょう。
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