
移動体通信とは、携帯電話やスマートフォンのような移動できる端末が無線で通信をできる技術・サービスのことです。
近年、近年の5G普及やDXの加速により、移動体通信エンジニアのニーズが高まっています。従来の固定回線エンジニアとは異なる専門性を持つ人材が必要で、移動体通信分野の最新技術や業界動向への理解不足を痛感している方も多いでしょう。
そこで、この記事では移動体通信エンジニアの業務内容、求められるスキル、即戦力を見極めるポイントなどを解説します。本記事を読むことで、移動体通信分野に関する十分な知識を身につけ、自信をもって自社に必要な人材を見極められるでしょう。ぜひ参考にしてください。
移動体通信エンジニアとは|移動可能なデバイスが快適に通信できるように支える技術
移動体通信エンジニアとは、スマートフォンや携帯電話などの移動可能なデバイスのインフラを構築・運用する専門技術者のことです。
携帯電話やスマートフォンが当たり前のように使える裏側には、移動体通信エンジニアによる緻密な基地局ネットワークの設計と運用があります。総務省の調査によると、2023年度末の各携帯電話事業者の5G基地局数は約26万局で、5G人口の約98%をカバーしていると発表しています。
▲出典:5G基地局数・5G人口カバー率の状況|総務省
これらの基地局を効率的に配置し、電波の死角を作らないよう設計するのが移動体通信エンジニアの腕の見せ所です。
固定回線エンジニアとの違い
移動体通信エンジニアと混同されやすい固定回線エンジニアですが、両者の違いを比較してみました。
移動体通信エンジニアと固定回線エンジニアの比較表
比較項目 | 移動体通信エンジニア | 固定回線エンジニア |
技術分野 | 電波伝搬技術 | 有線通信技術 |
扱う媒体 | 電波(無線) | 光ファイバー・メタル線(有線) |
設計の複雑性 | 建物・地形による電波の反射・回折・減衰を考慮した複雑な設計 | 物理的な線路設計 |
主要資格 | 陸上特殊無線技士 | 電気通信主任技術者 |
技術トレンド | 5G、6Gなど最新技術に携わる機会が多い | 光通信技術の発展に対応 |
業務の緊急性 | 高い(災害時緊急復旧、イベント時臨時基地局設置等) | 比較的計画的な業務が中心 |
業務の機動性 | 機動的な対応が頻繁に求められる | 設備が固定されているため計画的作業が多い |
対応場面 |
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おおきな違いは電波伝搬技術への理解で、移動体通信では建物や地形による電波の反射・回折・減衰を考慮した複雑な設計が必要となります。固定回線では光ファイバーやメタル線という物理的な配線を扱うのに対し、移動体通信では目に見えない電波を扱うため、より高度な理論知識が求められます。
資格面でも、固定回線では電気通信主任技術者が中心ですが、移動体通信では陸上特殊無線技士が必須となり、取得すべき資格体系が異なります。
キャリアパスも大きく異なり、移動体通信エンジニアは5G、6Gといった最新技術に携わる機会が多くなります。業務の緊急性も違い、移動体通信では災害時の緊急復旧対応や、大規模イベント時の臨時基地局設置など、機動的な対応が求められる場面が多いのが特徴です。
移動体通信エンジニアの業務内容
ここでは移動体通信エンジニアの仕事内容を紹介します。
- 基地局の設計・構築
- 運用・保守・障害対応
- 土地オーナーとの交渉・調整
- 各種書類作成・行政手続き
基地局の設計・構築
基地局の設計・構築業務は企業の通信インフラの基盤を作る重要な工程です。電波カバレッジ(通信可能エリア)の解析から始まり、最適な設置場所を選定する高度な判断力が求められます。
具体的には、候補地の電波環境測定、建物の構造確認、電源設備の調査、アクセス道路の確認などのチェックポイントを確認します。CADソフトを使用した設計図面作成では、アンテナの向きや角度を1度単位で調整し、隣接基地局との干渉を避けながら最大限のエリアをカバーする設計を行うことが重要です。
施工段階では、クレーン車の手配から作業員のスケジュール調整、天候による工程変更まで、プロジェクトマネジメント能力が試されます。工事会社との調整では、仕様書の作成から見積もり査定、品質管理まで、技術知識と交渉力の両方が必要。完成後の試験調整では、実際に電波を発射して設計通りの性能が出ているか確認し、必要に応じてアンテナ角度の微調整を行います。
運用・保守・障害対応
基地局は構築したらそれで終わりではなく、むしろ開設してからが本番と言えます。運用・保守・障害対応とは基地局を安定して利用するために、稼働状況を常に把握し、必要に応じて設定変更やリソースの調整を行うことです。
具体的には、巡回点検を実施し、機器の劣化状況や性能低下が起こっていないか確認します。また、通信障害が発生したときにはアラーム監視システムからの警報を分析し、迅速に原因の切り分け・特定を行います。
障害原因は機器故障、電源異常、回線断、電波干渉など多岐にわたり、それぞれに対応した復旧手順を熟知していなければいけません。
土地オーナーとの交渉・調整
基地局の構築・設計は自社で完結するものではなく、土地オーナーとの交渉も含まれます。
基地局用地の確保では、高額な月額賃料の交渉を行うため、不動産知識と交渉術の両方が必要となります。地権者への初回訪問では、電波の安全性に関する説明資料を用いて、健康への影響がないことを科学的根拠とともに丁寧に説明します。
契約書作成では、設置場所の図面作成、賃料の支払い条件、原状回復義務など詳細な取り決めを行うことが欠かせません。周辺住民への説明会では、基地局設置による景観への影響や、工事中の騒音対策など、住民の不安を一つずつ解消していく粘り強さが求められます。
各種書類作成・行政手続き
各種書類作成と行政手続きも、移動体通信エンジニアの重要な業務です。
総務省への無線局免許申請では、技術基準適合証明書、無線設備の工事設計書など書類を準備する必要があります。建築確認申請では、構造計算書の作成から始まり、建築基準法に適合した設計であることを証明する詳細な図面を作成します。
環境影響評価では、電波による周辺環境への影響を数値シミュレーションで解析し、基準値以下であることを証明する報告書を作成します。施工計画書では、工事手順、安全対策、品質管理方法を詳細に記載し、発注者の承認を得るための説得力のある文書作成能力が必要です。
完成検査報告書では、測定データ、写真、図面を体系的にまとめ、設計通りに施工されたことを客観的に証明する文書作成スキルが求められます。これらの書類作成経験は、候補者の事務処理能力と技術的な理解度を同時に測る重要な評価ポイントとなるでしょう。
移動体通信エンジニアに必要なスキル・資格
ここでは移動体通信エンジニアに必要なスキル・資格を紹介します。
- 陸上特殊無線技士
- 電気施工管理技士・電気通信設備工事担任者
- CAD・Excel・Linux操作などの実務スキル
- コミュニケーション能力・折衝スキル
陸上特殊無線技士
陸上特殊無線技士は移動体通信エンジニアにとって必須の国家資格です。
第一級では30MHz以上の電波を使用する無線設備の技術操作が可能となり、携帯電話基地局やマイクロ波中継所など、移動体通信の根幹となる設備を扱えるようになります。
第二級では陸上移動局や小規模固定局の操作に限定。第三級では簡易な業務用無線機の操作のみとなるため、基地局エンジニアとしては第一級が実質的な必須条件となっています。
資格取得には養成課程の受講または国家試験合格の2つの方法があり、実務経験を積みながら取得を目指す技術者も多いです。
電気工事施工管理技士・工事担任者
基地局建設プロジェクトでは、電気工事施工管理技士の資格保有者がプロジェクトマネージャーとして配置されるケースが多いです。
1級電気工事施工管理技士は、特定建設業の専任技術者や監理技術者として大規模な基地局建設工事の施工計画から品質管理、安全管理まで一連の施工管理業務を統括できる資格です。工事担任者(DD第1種やAI第1種)は、基地局と交換機を結ぶ回線の接続工事や、局内設備の配線工事において法的に必要となる資格で、ネットワーク構築の実務で活躍します。
これらの資格保有者は現場での信頼度が高く、工事業者との折衝や行政への申請業務もスムーズに進められるため、即戦力として期待できる人材といえます。
CAD・Excel・Linux操作などの実務スキル
移動体通信エンジニアの実務では、AutoCADによる基地局設計図面の作成スキルも求められます。
基地局の設置場所の選定から、アンテナの配置設計、電波伝搬シミュレーションまで、CADを使いこなせることで設計業務の生産性向上を期待できます。ExcelではVLOOKUPやピボットテーブルなどの関数を駆使して、電波測定データの解析や工程管理表の作成、予算管理などを行うため、マクロやVBAまで使える候補者は重宝されるでしょう。
Linux操作スキルは基地局の遠隔監視システムや、ネットワーク機器の設定変更で役に立ちます。コマンドライン操作やシェルスクリプトの作成ができる技術者は障害対応でも活躍できるでしょう。
これらの実務スキルは資格では測れない部分ですが、面接時に具体的な使用経験や作成した成果物について質問することで、候補者の実力を見極めることができます。
コミュニケーション能力・折衝スキル
移動体通信エンジニアには専門技術だけでなく、高度な対人スキルも求められます。
基地局建設では地権者との交渉が発生し、電波の必要性や安全性をわかりやすく説明しながら、設置許可を得るための粘り強い交渉が必要となります。行政機関への各種申請では、建築確認申請のような複雑な手続きを進める必要があるため、担当者との円滑なコミュニケーションが工期短縮の鍵となります。
工事業者や電力会社、他の通信事業者など、多様な関係者との調整業務では、技術的な内容を相手のレベルに合わせて説明する能力が不可欠。社内でのプレゼンテーションでは、経営層に対して技術的な投資判断の材料を提供するときに、専門用語を使わずに事業インパクトを説明できる人材が高く評価されます。
移動体通信エンジニアの年収相場
経験レベル別の年収相場を把握することで、採用予算の設定や人材評価の基準を明確にできます。
大手求人サイトindeedによると、移動体通信エンジニアの平均年収は約653万円となっています。この年収水準は、5G展開による需要急増と専門資格の希少性という特性が反映された結果と言えます。
第一級陸上特殊無線技士の資格保有者は、資格手当と管理職手当の上乗せにより、さらに上の年収レンジに入りやすくなります。
即戦力の移動体通信エンジニアを見極めるポイント
移動体通信エンジニアの技術力を正確に評価するのは、意外と難しいものです。ここでは面接で候補者の能力を見極める方法を解説します。
- 基地局の設計・施工経験
- 障害対応の経験
- 業界知識への習熟度
基地局の設計・施工経験
基地局の設計・施工経験は企業の通信インフラの基盤を作る重要な要素です。現地調査から設計、施工、試験調整まで一連のプロセスを主担当として完遂した経験を持つ技術者が、即戦力として価値が高いと言えるでしょう。
具体的には、電波伝搬特性の測定や建物構造の確認、周辺環境の評価など、机上ではわからない現場特有の課題を発見し解決する能力が養われています。施工管理では工程管理だけでなく、作業員の安全管理、品質管理、コスト管理を同時並行で進める必要があり、この経験は管理職としての素養も示しています。
とくに価値が高いのは、ビル屋上、鉄塔、地下街、トンネル内など、異なる環境での施工実績を持つ技術者で、それぞれの環境特有の技術的課題を理解しています。面接では「最も困難だった基地局建設プロジェクトとその解決方法」を具体的に説明してもらうことで、問題解決能力と技術的な深さを同時に評価できるでしょう。
障害対応の経験
通信障害対応の経験は、技術者の真の実力が最も明確に現れる場面であり、この経験の質と量が即戦力度を決定づける重要な要素となります。優秀な技術者は、アラーム監視システムの警報から障害の種類と影響範囲を瞬時に判断し、復旧までの最短ルートを導き出す能力を持っています。
スペクトラムアナライザーやネットワークアナライザーなどの測定器を使いこなし、電波干渉や機器故障の原因を物理層から特定できる技術者は特に貴重です。障害対応では技術力だけでなく、関係部署への的確な状況報告、顧客への影響説明、ベンダーとの連携など、コミュニケーション能力も試されます。
予防保守の観点では、過去の障害傾向を分析して予防保守計画を立案し、定期点検項目を最適化した経験があれば、運用コスト削減にも貢献できる人材といえます。
業界知識への習熟度
移動体通信エンジニアには、通信業界の知識に対する習熟度も高くないといけません。
たとえば5G技術への理解度は、候補者が最新技術にキャッチアップできているかを測る重要な指標です。とくにミリ波とSub6の技術的違いを実務レベルで説明できることが重要です。
6GやBeyond 5Gといった次世代技術への関心度も重要で、テラヘルツ波の活用や衛星通信との統合など、将来技術への見識を持つ技術者は長期的な戦力となります。面接では「5Gで実現される新しいユースケースを複数挙げ、それぞれの技術的要件を説明してください」といった質問で、技術理解と事業視点の両方を評価することが可能です。
移動体通信エンジニアを確保する方法
移動体通信エンジニアの人材確保を検討するうえで、まず把握しておきたいのが採用手法の選択肢です。移動体通信エンジニアを確保する方法は、主に社内育成、中途採用、フリーランス活用の3つが考えられます。
事業計画や予算を策定するためには、それぞれの手法における特徴とコストを理解しておきましょう。
社内人材を育成する
社内人材の育成は初期投資が必要ですが、長期的には最もコストパフォーマンスが高く、企業文化に合った人材を確実に確保できる方法です。社内にノウハウを蓄積できるため、中長期的な視点で事業を成長させたい場合には最適な選択肢と言えます。
OJT(On-the-Job Training)では、実際の基地局建設プロジェクトに参加させながら、先輩エンジニアの作業を観察・模倣・実践することで、現場でしか学べない実践的なスキルを身につけられます。Off-JT(Off-the-Job Training)では、移動体通信の理論や最新技術動向を体系的に学習できるでしょう。
外部研修機関の活用も効果的です。大手通信キャリアが提供する技術研修プログラムや、メーカー主催の5G技術セミナーなど、実機を使った実践的な研修を受講できるため、座学では得られない貴重な経験を積むことができます。
また、メンター制度を導入すれば、ベテランエンジニアから若手への知識継承がスムーズに進みます。技術的な質問だけでなくキャリア相談もできる環境を整えることで、社員の定着率も向上するでしょう。
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経験者を中途採用する
移動体通信エンジニアの中途採用市場は売り手市場であり、優秀な人材を獲得するには戦略的なアプローチと魅力的な条件提示が不可欠です。即戦力となる経験者を確保するためには、競合他社との差別化が求められます。
魅力的な求人票では、具体的な業務内容と使用技術(6G、Beyond 5Gなど)を明記します。プロジェクトの規模感や裁量権のおおきさをアピールすることで、技術者の興味を引くことができるでしょう。
求人媒体の選定においては、一般的な転職サイトだけでなく、通信業界専門の求人サイトや技術者コミュニティへの掲載が効果的です。LinkedInなどのビジネスSNSの活用により、潜在的な候補者にもリーチできます。
関連記事:インフラエンジニアの中途採用は難しい?即戦力人材を迅速に獲得するコツを解説
フリーランスを活用する
フリーランスの移動体通信エンジニアは、必要な期間だけピンポイントで活用できるため、プロジェクトベースでは効率的な選択肢になります。
プロジェクト単位での活用では、基地局の新規構築や大規模な設備更新など、一時的に高度な専門性が必要な場面で、正社員採用よりも迅速に即戦力を確保できます。必要な期間や役割に応じてエンジニアの力を借りられるため、無駄なコストを抑制できます。
また、フリーランスエンジニアは複数の企業で経験を積んでいるため、最新の技術トレンドや他社のベストプラクティスを共有してくれる点もメリットです。外部リソースをうまく活用すれば、社内のリソースを事業の基盤となる業務に注げるでしょう。
関連記事:インフラエンジニアへの外注とは?業務委託のメリットとおすすめのエージェントも紹介
移動体通信エンジニアの採用ならクロスネットワークがおすすめ
この記事では移動体エンジニアの業務内容と求められるスキル、人材確保の方法などについて解説しました。
移動体エンジニアには、基地局での施工経験や地主との交渉といった独特の経験が求められます。加えて5Gやクラウドといった最新技術への理解も欠かせないため、即戦力を確保するのに悩む企業も多いかと思います。
そこで、移動体通信エンジニアの採用でおすすめしたいのがエージェントサービス「クロスネットワーク」です。
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ご相談はお問い合わせページより承っており、平均1営業日以内にご提案します。インフラエンジニア採用でお困りの際は、ぜひクロスネットワークにご相談ください。
- クロスネットワークの特徴
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- 支援実績・お客様の声

新卒で大手インフラ企業に入社。約12年間、工場の設備保守や運用計画の策定に従事。 ライター業ではインフラ構築やセキュリティ、Webシステムなどのジャンルを作成。「圧倒的な初心者目線」を信条に執筆しています。